私はひらがなが好きだ。カタカナより、漢字より、アルファベットより、断然ひらがなが好きだ。

そこで、「あいうえお」から「わをん」まで、すべてのひらがなを順番に、一つずつレビューしていきたい。最後には好きなひらがなランキングTOP10を発表する。

日本語の文字の代表格、あ。2画目のあと右上に飛び、そこから一気にカーブを描くのが気持ちいい。直線と曲線が組み合わさったデザインは見た目にも美しい。

しかし、パソコンなどでは試しに文字を打つときなど「あああああ」と乱用され、やや貴重感が薄れているのは否めない。美しくはあるが、ゾクゾクするような面白さ、新奇さはないと言えよう。

左右にパーツが分かれているのが楽しい。欧米のアルファベットではそもそも一文字が分かれているのは小文字のiとjだけであり、左右に分かれているものは存在しない。

「いい」「かわいい」では2つ連続して使用されているのが印象的で、ポジティブなイメージが強い。小さい女の子にひらがなを1つだけプレゼントするとしたら、「い」は最適である。

今度は縦に分かれているパターンである。「うどん」や「うなぎ」などは凝った書体で店舗の看板に描かれることも多く、ひらがな界では一定のプレゼンスを有している。

だが、縦セパレートは先ほど書いたiとjというアルファベットと同様であり、さらに「う」は発音のときの口の形もあいまって、どうしてもとんがった唇を連想させてしまう。個人的にはさほど好ましいと思えない文字である。

こちらも縦セパレートだが、下部が複雑になっている。かつては「ゑ」という文字もあってこちらに統一されたが、「え」もまだ比較的古風な趣を持っている。

普段この文字のことはあまり意識していなかったが、いま、少し眺めているだけで「元」か「λ」とごっちゃになりゲシュタルトが崩壊してきた。この文字を長く見つめるのは危険かもしれない。

「おっ」と感嘆のときに発せられる文字。「あ」に似ているがやや違う。どこか間抜けに見えてしまう文字である。

下部の右側の丸い部分を大きく書けば大人っぽい、達筆な文字にもなりうるが、それでもあまり興味が持てない文字だ。

縦の長い直線、カーブ、そして右上の短い線。この3つの組み合わせがかっこいい。「刀」という感じをオーバーラップするためか、男らしさと美しさを兼ね備えたよさがある。

男にプレゼントするなら、「か」は第一候補となるだろう。

最悪のひらがなである。2本の横棒が浮き出たアバラ、あるいは焼き魚の残骸を思わせ、非常に醜悪である。手書きの場合は最後の左下はセパレートとなるが、多くのフォントでは3画目が最後まで続くのもどこか納得できない。

ひらがな界屈指のシンプルさを誇るこのがこの文字だ。わずか1画、しかも途中で曲がっているだけ。アルファベットの「L」を傾けただけである。

「く」は「苦」を容易に連想させるためかなりのハンディキャップを背負っているはずだが、それでもこのシンプルな美しさは心を惹きつけるものがある。

こちらはひらがなの中でもトップクラスに美しい一文字だ。左右のセパレートに加え、左の下部は跳ね、右の棒には短い横線もアクセントとして添えられている。

「い」や「り」に似ていて、しかし横線もあり、非常に優等生的なこの「け」だが、一方、真面目すぎて背後に闇を感じてしまう部分もある。メンヘラの可能性があるので、接するときには注意が必要だ。

「い」を横にしたようなデザイン。「これ」「こちら」「ここ」など指示語の一文字目としてしばしば使われ、目にする機会はかなり多い。

しかしこれといった特徴がないため、改めて眺めてもこれといった感慨が湧かない。ないと非常に困るが、普段はありがたみを感じられない文字である。

感想を述べる価値もないのがこの「さ」だ。最悪のひらがなである「き」から横棒が一つなくなったのはいいが、3つの線が杜撰に組み合わされただけの文字である。

フォントとなると手書きの場合と違ってきてしまうのもマイナスである。

「く」と並ぶ、ひらがなのシンプル・シリーズである。こちらは下部の曲線にすべてをかけている。そして、事実そこが非常に美しい。

この簡素さ、さらには「死」から連想する儚さが日本古来のワビ・サビを表現しており、きわめて美しいひらがなであると言えるだろう。

中途に線で丸く囲まれた部分が現れる美しいデザインが特徴だ。アルファベットにもaやbやd、gやpなど、いくつも丸く囲まれた部分を含む文字は存在しているが、「す」は丸を描いたあとに左下に筆が払われ、そこがあたかも日本庭園に吹く一陣の風を思わせる。

きわめて美しいひらがなの内の一つだ。

「さ」ほどではないものの、面白みのない文字である。「世」を簡略化したのだろうと容易に推察できてしまうのもマイナス・ポイントだ。

「き」に次ぐくらい嫌いな文字である。醜悪というわけではないが、この形状はバネを連想させ、少し上から押したら手を離した瞬間にどこかへ飛んでいき、2度と見つからないのではないかと不安になってしまう。

また、かつて「そ」は上部を一部セパレートにして書いていたことがあった。私は旧「そ」と新「そ」の狭間の世代に生まれたため、幼い頃はどちらも併用されており、非常に混乱させられた。このトラウマのせいもあり、嫌いである。

本名に含まれる文字のため、生まれてから何度も書いているが、あまり好きではない。ひらがなにしては画数が多いし、カーブがないのが退屈だ。

改めて眺めてみたが、ほとんど何の感慨も湧かない。美しくもなければ醜くもない。そもそもひらがなとしての使用頻度が低いため、最悪、なくなってもさほど困らなそうである。

「し」と双璧をなす、簡素にして美しい一文字である。パソコン上では何かを差し出す手(動物の前足?)を表現するのにも使われ、どこか愛嬌がある。

もしひらがなが実体化するのなら、「つ」はカバンの中にいくつか入れておきたい文字だ。

普段、「て」はあまり意識していなかった。美しいと言えなくもないが、積極的にそう評するほどでもない。

いま見つめていたらなんだかギリシャ文字のように見えてきてしまった。これも「え」と同じくあまり見ていると危険な文字かもしれない。そっとしておこう。

これもなんだかγ(ガンマ)に少し似ている。好きでも嫌いでもない。美しいとも醜いとも言えない。

「た」行は全体的に評価に窮してしまう文字が揃っている。

来た。ひらがなの中で唯一、3部分が独立しており、さらに右下には丸く囲まれた部分がある。左上にはクロス、右上にはチョン。まさに、ひらがな界の3冠王。全部盛り。

ひらがなの中では「な」が一番好きという人も実は多いだろうが、どうにも人には言いにくいのも事実。「どれか一つ、早い者勝ちでひらがなを取っていいよ」と言われても「な」に手を伸ばすのは躊躇してしまうかもしれない。

「こ」の右側に縦棒が付いている。が、面白みは特になく、嫌いになる要素もない。可もなく不可もなく、75点の文字である。

たまに遊ぶ友達としてはいいが、刺激を与え合う関係にはなれなさそうだ。

この重心の低さはひらがな界一である。右下には丸があり、さらに半円を描くほどのカーブがありつつ、そこを2本の線が貫いている。『風の谷のナウシカ』に出てくる王蟲(オーム)は「ぬ」をモデルにしているのかもしれない。

「ぬ」はひらがなで使用する機会があまりなく、他とは接しない孤高の雰囲気を纏っている。

大きめのカーブを持ち、さらに右下に丸があって、「ぬ」と少しだけ似た雰囲気を漂わせている。しかし重心はかなり上にあり、軽くてフレンドリーな一文字である。

もしかしたら「ぬ」とは幼馴染で、対照的に見えながら実は相互に補完し合うような存在なのかもしれない。

このひらがなが嫌いな日本人はいないだろう。ひらがな界のトップスターと言ってもいい一文字だ。英語で言えばofにあたる助詞として頻繁に用いられ、ほぼ円を描くような書き方も楽しい。宮崎駿のアニメでは「タイトルに『の』が入るとヒットする」とまで言われた持ち上げられぶりである。

文句のつけようがない。

「け」の右下に丸を足した安易なデザイン。それはまるで、ステーキ店にカレーのメニューを付け加えたような安っぽさがある。あまり積極的に評価できない一文字だ。

というより、そろそろこの記事を書き始めたことを後悔している。どこの誰が「ひらがなのレビュー記事」を読みたいんだ?

巾着袋みたいで、割と好きである。真ん中の窪みにどんぐりか何かを入れておきたい。

さっきは「な」が3つの部分に分かれていて、それが最多かと思ったが、「ふ」は手書きだと4つとなるので、こちらが本当の最多だ。とはいえ、眺めてもあまり感慨が湧いてこない。

「し」「つ」「く」と並ぶ、シンプル・シリーズがこれで出揃った。「へ」は「山田さんへ」などと表記すると、「え」と発音することになっている。配置によって音が変化するという珍しい文字である。日本語の歴史を感じさせてくれる。

となると、「は」も「わ」と発音することがあるのだから、少し面白さがあるわけで、もっと評価してあげるべきだった。

どこかいやらしさがある文字である。下品だ。好きじゃない。

横棒が2本あるところは「き」と同じである。なのに、矛盾するようだが「ま」はかなり好きな文字のうちの一つである。最後の丸くキュッとしまる部分が横棒2本の気持ち悪さを中和してくれているのかもしれない。

唇を使った発音が心地いいというところも、プラス評価の一端だろう。

非常に美しい。若干、昆虫のようなフォルムをしているが、古代文字か架空の文字みたいで見ていて楽しい。書いても美しい。

ゆりかごのようでこれも悪くない。

えっと、あと何文字あるのだろう。そろそろ歯を磨いて眠りたい。

きれいだ。いい文字である。

悪くない。

重心がかなり上にあるのがヤンチャでいい。

ついに登場した。もっとも美しいひらがな、「ゆ」である。

まずは一画目、上から下に直線を引き、そのままずっとカーブを描く。ほとんど円を描いたあと、花火のように上部へと登り、そこから一気にど真ん中を急降下。自身の描いたカーブを突っ切って下まで行き、やや左へ逸れながらシュッと余韻を残して消えていく。

これほど美しいひらがなはないし、カタカナ、漢字、アルファベットすべてを含めても、「ゆ」が最高ではないだろうか。ひょっとしたら、世界中のあらゆる文字の中で「ゆ」がもっとも美しいかもしれない。

「ゆ」は助詞として使われることはなく、普段、ひらがなとして使う機会はほとんどない。「ゆ」として目にするのは銭湯の暖簾くらいかもしれない。このプレミアム感も、「ゆ」の美しさを担保している理由の一つだろう。

可もなく不可もなく。

悪くない。

なかなかいい。「い」に似ているのに右側が長いというのが楽しい。論じる順番が「あ」からでなく「ん」からだったらもっと褒めていただろう。

よい。

まあまあ。

悪くない。

右側のカーブが大きく、そのフォルムと「たわわ」という言葉のおかげでフルーツを連想させ、いい文字である。

なぜ未だに使用されているのか不思議なくらい、見た目も使われ方も古臭いひらがなである。「お」があるのに、「かぎのを」などと言われ、しぶとく生き残っている。

見た目の面白さはそこまでないし、いっそ「を」は廃止し、「お」で統一してしまってもいいんじゃないかと思うことがある。そうなると、「チョコをください」は「チョコおください」になるわけだ。

……ああ、そうか。そうすると、「お」が丁寧の「お」に見えたり、次の「く」とくっついて「置く」のように誤認したりする可能性があるわけか。

どうやら、「を」が残っているのは必然的な結果のようだ。

波みたいできれい。文字の見た目の発音がぴったりで、日本語を知らない人でも、この「ん」のフォルムを見たら性格に発音してくれそうだ。

考えてみれば、「ん」は英語だとnかmである。そして、「ん」はnとmに似ている。音と文字は偶然的に対応しているだけかとも思えるが、どうも何か、内的な連関がありそうである。

好きなひらがなランキング・ベスト10

すでに五十音をレビューする中で好き嫌いを書いてしまったが、あらためてベスト10をまとめてみよう。

1位:ゆ
2位:の
3位:へ
4位:ぬ
5位:し
6位:み
7位:け
8位:す
9位:つ
10位:く

もちろん、1位は「ゆ」で不動である。おそらく一生変わらない。他は迷う部分もあるが、おおむねシンプルなものと丸を含んだ文字が自分は好きなようだ。

最後に

なぜこんな記事を書き始めてしまったのか、後半はかなり後悔しつつだったが、長年親しんだひらがなをすべてレビューするいい機会となった。好きな文字、美しい文字はあらためてそのよさを認識することができたし、普段は意識に登らない文字とも向き合うことができた。

辛口評価をしてしまった文字もあるが、総じてひらがなは好きである。最悪だと言った「き」でさえ、たとえば漢字の「欄」や「奮」に比べればはるかにマシなのだ。

ひらがなのある日本に生まれて本当によかった。そして、おやすみなさい。