新井紀子著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読みました。やや旬は過ぎているでしょうが、とても刺激的で面白い本でした。

と同時に、多くの日本人の読解力が想像以上に低いという現実に、空恐ろしいものを覚えました。

AIは恐るるに足らず

この本の前半はAIについてです。「AIは東大入試に合格できるのか?」というプロジェクトを聞いたことがある方は多いでしょう。この本の著者がそのプロジェクトの発起人でありリーダーです。

AIというと、この頃は非常に持ち上げられていて、いつかは人間の知能を超えるんじゃないか、シンギュラリティが来るんじゃないか、という話まで出てきています。いずれターミネーターのような恐ろしい世界が到来するんじゃないか、とも。

私も一時期、そんなディストピア的未来におびえ、布団をかぶってブルブルと恐怖に震えていたのですが、どうやらそんな心配は無用。

なぜ、心配しなくていいのか?

要点だけいうと、AIは数学の言葉でできており、数学は「論理・確率・統計」しか扱えないから、とのこと。

人間の知的活動はさまざまな方面に渡りますが、AIが代替できるのはその3つだけなので、「人間を超える」なんてことはまずありえない、ということです。というか、「論理・確率・統計」だけならすでにコンピューターの方が優秀ですけど、それ以外の部分はからっきしAIには扱えない、というわけです。

AIというとなんかすごそうですが、所詮は計算機ということですね。

日本人の多くは基本的な読解力を欠いている

問題は次です。この本の後半で書かれていることが衝撃的なのです。

著者新井さんは日本人の中高生、それから社会人も含め、どのくらいの文章読解力があるのかを調べたそうです。教科書や新聞のような、さほど難しいとは思えない、基本的な文章をきちんと読めているか、です。

たとえば、こんな例題が紹介されています。3つご紹介しましょう。初見の方はちょっと考えてみてください。

次の文を読みなさい。

火星には、生命が存在する可能性がある。かつて大量の水があった証拠が見つかっており、現在も地下には水がある可能性がある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを1つ選びなさい。

かつて大量の水があった証拠が見つかっているのは(  )である。

  1. 火星
  2. 可能性
  3. 地下
  4. 生命

次の文を読みなさい。

エベレストは世界で最も高い山である。

この文に書かれたことが正しいとき、以下の文に書かれたことは正しいか。「正しい」、「まちがっている」、これだけからは「判断できない」のうちから答えなさい。

エルブレス山はエベレストより低い。

  1. 正しい
  2. まちがっている
  3. 判断できない

次の文を読みなさい。

Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

Alexandraの愛称は(  )である。

  1. Alex
  2. Alexander
  3. 男性
  4. 女性

いかがでしょうか? 正解はすべて1です。

3つ目は中学生と高校生の正答率が紹介されており、中学生で38%、高校生で65%です。つまり、中学生だと62%、高校生だと35%がこのくらいの文章をちゃんと理解できないのです。

他にも多くの実例が紹介されていますが、世界的に見ても、成人を含めても、人間というのは思ったよりも読解力がないのです。

この『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』では、この読解力を欠いた労働者たちがいずれAIに仕事を奪われていくだろうと予言していますが、それとは違う文脈で、この読解力不足の現実を捉えてみようと思います。

ネットリテラシー不足=情弱の原因

よく、情報弱者は「情弱」とバカにされます。ネットリテラシーがない人もバカにされます。

多くの場合、それは情報の量が不足していたりとか、検索能力のないことを指して言われますが、しかしそもそも、テキストを読解する力がないのだとしたらどうでしょう?

文章を読んでその意味を理解する。これができないのであれば、どれだけ膨大な量の情報があったとしても無意味です。消化器官が弱いところへいくら食べ物を入れても意味がないのと同じように、何も摂取できないことになります。

おそらく、情弱の中にはそもそもの読解力がない人がかなりの数いるのです。

ツイッターやブログでも、やたらとんちんかんなことを書く人というのがいます。論理性がなかったり、まずそもそも文章の意味を理解していなかったり、などなど。「なに言ってんだ、こいつ?」と思いますが、その人は「Alexandraの愛称は女性である」と思っちゃう人の可能性があるのですから、どうしようもありません。

おかしなコメントに対して理路整然とどこがおかしいかと説明したとしても、その説明が理解されないでしょうから無意味です。

では、その読解力不足の人はどうすればいいのか? ここには今のところ「これぞ」という解決策がありません。

本来なら学校がその役割を果たすべきですが、そもそも「教科書が読めない」子どもが量産されているのが現状です。では、インターネットを使って独学すればいいかというと、これは不可能です。だって、ネットを使って自学自習するためにはその読解力が不可欠なのですから。

というわけで、現状、読解力のない人は置き去りにされており、ここに圧倒的な格差が存在しているのです。

邪悪な秀才がバカを搾取する構造

人間には文章を(音声でも同じでしょうが)きちんと理解できる人と、そうでない人がいる。

この事実を知ってハタと思い当たったのが、ソフトバンクの料金体系です。

ソフトバンクのスマホ料金は非常に複雑で入り組んでおり、理解するのが容易ではありません。私自身はかなり読解力がある方だと思いますが、それでも全容解明には苦労しました。

で、薄々わかってきたのは、ソフトバンクが「読解力の壁」を築き、それによって弱いものを搾取しているという構造です。どう考えても、これは意識的に、戦略的にやっています。

一見すると安くてリージナブルなように見せて、しかし、よく読んで理解するとすごく高い。逆にいうと、本来すごく割高なものを、見せ方ひとつで安くていいものに見せている。

たとえばウルトラギガモンスター+というサービスは本来月額5,980円ですが、さまざまな割引が効いた状態での3,480円という値段を大きく書くことで誤解を誘発しています。読解力があれば真実がわかりますが、ないと、割高な料金を毎月払わされるハメになる、というわけです。

また、他にも重要な情報をホームページの見えにくい場所に記載したり、統合すべき情報を別々のページに分散させたり、割引条件を複雑化することで、理解を難しくしています。嘘を書いているわけではないのですが、読解力がないと真実までたどり着けないように、「見えない壁」を構築しているのです(具体的にどういった戦術が使われているのかは、タイプ別に分類して動画で紹介しようかと思っています)。

ただし、この戦術はソフトバンクに限定されたものではありません。悪質な販売者は多かれ少なかれこの手のやり方を使っていますし、社会全体がこれに類似した搾取の構造を持っているのです。

つまり、読解力を持つ邪悪な秀才が、読解力を持たないバカを搾取するという構造です。

読解力がない人に合わせるべきか問題

では、商売をしたり情報発信をするとき、読解力がない人に合わせるべきなのでしょうか? ソフトバンクのように誤解をあえて誘発するのは論外としても、どこまで合わせるべきなのか?

これは結局、ケースバイケース。状況次第ということになるでしょう。

広く一般にものごとを伝えるのだったら、なるべくやさしく語る必要があります。いきなり難解な言葉や論理を使ってしまえば、伝わりません。

けれど、今はこちらに偏り過ぎているきらいがあります。テレビ番組にしても何にしても、「わかりやすく教えてくれる人」が偏重されていて、それが善であるとされています。塾講師をしているとき、「相手のレベルに合わせて話せることが本当の教養なんだ」と言われたこともありました。

ですが、これを続けていくと、世の中のレベルがどんどん下がっていきそうです。読解力がなくてもいい状態になればなるほどその能力は退化し、邪悪な人間に搾取されやすくなってしまう。

テレビのバラエティ番組は生理的に心地よい演出を多用し、それによってたえず「読解力なんてなくていいんだよ」というメタ・メッセージを送り続け、その合間にソフトバンクのCMを流し、読解力のない人をおびき寄せてカモにしている。はて、いかがなものでしょうか。

どうです? 空恐ろしいと感じませんか。

終わりに

新井紀子著『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読んで考えたことをお伝えしました。

AIがどうのというよりは、タイトルの後半部分、「教科書(レベルの文章)が読めない」というところにフォーカスしてお伝えしました。

この状況を打破するために必要なのは「教育」でしょうが、これをどうしたらいいのかは難しい問題です。が、これからの社会で生きていくときにはこれを前提にして事に当たる必要がある、と言えるでしょう。


AI vs. 教科書が読めない子どもたち