「ネット通販は便利だな。なんでも買えるし、安いし、配達もはやい!」

こう思って喜んでいたのは少し前の話。最近、こう思うのです。

なんで自分はまだリアル店舗に行ってるんだろう?

真顔で、こう考えるようになりました。

なぜまだリアル店舗に行っているのか?

わざわざお店に行かずとも、ネットを使ってAmazonや楽天で買えば楽。品揃えはほとんど無限だし、値段は実店舗より安い。

これが当たり前になると、むしろ、こんな問いが生まれてくるのです。

「自分はなぜまだリアル店舗に足を運ぶことがあるのだろう?」

この疑問が生まれるというのは、恐るべきことです。だって、「お店に行って物を買う」という当たり前すぎる行為が、自明のものではなくなったのですから。それはもはや、理由を尋ねられなければならない行為になってしまったのです。

「ネット通販が便利になってるから、あんまりお店に行かなくてよくなったよね」と時代の変化を感じている場合ではないのですよ。そんなフェーズは終わったのです。

まだリアル店舗に足を運ぶ3つの理由

時代が完全に変わってしまいました。けれど、実際問題としては、自分はまだリアル店舗に行きます。けっこう行きます。

なので、その理由を考えてみました。おそらくだれもが納得するであろう3つの理由を挙げていきます。

理由1:からだごと行く必要があるから

髪を切りに美容院に行く。おいしいものを食べにレストランに行く。

こういう場合はリアル店舗に行かざるを得ません。

頭をカポッと外してネット美容院に送り、散髪してもらったものを返送してもらってカポッとはめる。なんてことができればいいですが、あいにく、人間の頭は取り外し式とはなっておりません。

お食事も、からだごと行かなければ楽しむことはできません。宅配の料理もありますが、配達が難しいものもありますし、できたとしても手間がかかるものも多い。なので、ネット通販には向きません。

かつて洋服や靴は「通販じゃ無理」と思われていましたが、それも「返品オーケー」が増えてきて、さらにはZOZOTOWNのZOZOスーツなどの登場で変わってきていますが、「からだごと行かなきゃいけない」タイプの店舗は一定数残るでしょう。

理由2:店舗空間にエンタメ性があるから

これはあまり語られていない気がするのですが、リアル店舗にはそれぞれのエンターテイメント性があります。私なんかはこれ目当てで店舗に行くことが多いくらいです。

コンビニの何がいいのか? それは、あの明るさでしょう。

コンビニができる前、近所にある商店はどこもかしこも暗いものでした。夜になればお店なんて開いていません。

しかし、コンビニに入れば天井全体に照明が光っていて眩しいほどの明るさ! 夜の暗闇に浮かぶコンビニの光はまるでオアシスのように感じられました。平成生まれの方々には、この新鮮な感動はお分かりいただけないでしょうけど。

では、イオンなどのデパートは?

イオンの持つ魅力は、あの空間の広がりです。縦方向だと2階か3階くらいの高さがあり、横方向にはとんでもない長さの距離が設けられています。その広大な室内空間が、イオンの魅力なのです。

ちなみにイオンが実現しているあの空間の楽しさは、何度か小説でも書いたことがあります。

コストコやイケアも似ており、こちらは縦方向の楽しさが際立っています。おそらく、原体験は、小学校に入学してはじめて体育館に入ったときの感動にあるでしょう。

生まれて初めて体育館という広い空間に入ったときの感動・高揚感・浮遊感。それを追体験させてくれるのがコストコやイケアなのです。

書店は等間隔にならんだ本棚。この幾何学的な繰り返しパターンが魅力です。また、電気店は、通常1部屋に1つしかないはずのテレビや冷蔵庫などの物体が、同一空間に何十も置いてあるというあの迫力がエンターテイメントとなっています。

没落が囁かれて久しい百貨店はといいますと、これはエレベーターと屋上に魅力があります。交差するように配置されたエレベーターはそれ自体が乗って楽しめるアトラクションですし、その先に待ち受ける高層階の上の屋上は、他にはない魅力的な空間です。

百貨店の屋上から見える空には、そこが都会であるにもかかわらず、電線も電柱もありません。都会の真ん中で青空が見られるから、百貨店に行くのです。

理由3:商品を実際に見て触ることができるから

言わずもがな、リアル店舗なら商品を見て、触って、場合によっては使ってみることさえできます。

不思議なのは、リアル店舗がこのサービスを無料で提供しているということです。ネット通販に比べると商品を見て触れるというのはすごいサービスなのに、この部分について、彼らは料金を取っていません。

私たちの多くの購買行動は、きっとこんな流れになっているでしょう。

  1. ネットで商品の情報を集める
  2. リアル店舗で商品を確認する
  3. 帰ってネット通販で買う

この2つ目のステップとして利用されているのに、電気店も書店も、そこに料金を発生させようとしません。無料でリサーチできる便利な場所として使われているだけです。

それでも商品をリアル店舗で買うのは「すぐ買ってその日に使えるから」という利便性と、あとは「リサーチさせてもらったからここで買ってやろう」という、いわば返報性の働きによるもの。普通に考えれば、帰ってからネット通販で買った方が安い場合が多いし、わざわざ持ち帰る手間もはぶけていいのです。

現状、リアル店舗に行った場合の私たちの心理はダブルバインドとなっています。

つまり、せっかく商品を見させてもらったのだからここで買わなきゃ悪い。でも、帰ってからネット通販で買った方が安い。さあ、どっちにしようか? こういう板挟みが生じています。

で、迷った末に買ったり買わなかったりするわけですが、この決定を左右する一番の要因はやはり価格で、価格勝負ならネット通販が勝つに決まっているのです。なので、ちょっとしたやましさを感じつつも、「帰ってからAmazonで買おう」「価格ドットコムで探してみよう」となってしまう。

できれば価格以外の部分でリアル店舗で買うメリットというのをバシッと与えてもらい、その場で気持ちよく買い物をして帰れれば、それにこしたことはありません。消費者としても、その方が気持ちがいいはずです。しかし、それがないのです。

小売店はAmazonに駆逐されていく

リアル店舗に行く理由は、上の3つをはじめ、いくつかあります。しかし、どんどんAmazonが進出してきて、「ここはネット通販には無理」と思われた領域も削り取られています。

ネットでクレジットカード情報を入力するのは怖い? こんな抵抗感はほぼゼロになりました。

服や靴などファッションは実物がないと無理? 返品オーケーで試着できる通販サイトができました。

品物に詳しい店員に相談したい? これも、アフィリエイトサイトを見たりオンラインで詳しい人に聞けるようになりました。

Amazonは利益率を抑えて、とにかく小売市場でのシェア拡大に邁進しています。人気商品なんかは赤字で売っているようです。1つ売るごとに赤字が出る。こんなことをしてまでシェアを広げようとしている。

こんな状態ですから、さぞかし百貨店や書店やデパートなどは震え上がっているに違いない。そう思いませんか。Amazonのマークを見るだけで髪の毛が逆立ち、不安から夜も眠れない。10年後、いま働いているお店が潰れてAmazonの物流センターに放り込まれ、来る日も来る日も商品のピッキングをやらされるディストピア的ビジョンが頭から離れない。

けど、なんだかそうはなっておらず、意外とみんなのほほんとしている

私の知り合いにも百貨店勤務の人がいますが、なんだか妙に楽観的というか、Amazonの恐怖を感じていないように見えるのです。高島屋や三越伊勢丹が「百貨店」なら、Amazonは「百万貨店」です。勝てるわけがないのに。

きっと、これまで大丈夫だったからこれからも大丈夫。まだ大丈夫。そんな惰性による安心感に浸っているうちに、やがてあっちもこっちも潰れて、気づいたら小売のあり方が不可逆的に変わってしまっていることでしょう。

まとめ

リアル店舗の危機が叫ばれて久しいわけですが、それでもまだ自分はリアル店舗に行くことがある。その理由としては次の3つでした。

  1. からだごと行く必要があるから
  2. 空間にエンターテイメント性を求めているから
  3. 商品を見て触れるから

これらの欲求を満たす店舗づくりができれば、リアル店舗もまだ生き残れるのかもしれません。

しかし、現状のままだとAmazonに駆逐されていくのは明白。小売店はやがて、美容院や飲食店などを除いて、Amazonだけになってしまいそうです。

「なぜまだリアル店舗に行っているんだろう?」という疑問が「なぜリアル店舗なんかがあったんだろう?」に変わる日は、そう遠くないことでしょう。